スズメのアドレナリン

井伏鱒二の名文から
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中込君はプラスチック製の蓋のついた容器や丼鉢や小皿など、お盆に載せて来て卓袱台の上に並べた。それから容器のプラスチック製の蓋を、乾いた音がするやうに手荒く開けた。
「この音で、やっこさん、たまりかねて飛んできます。」
雀は卓袱台の上に飛んで来て、前のめりになりかけたが辛くも踏みとどまった。
「どっこいしょ」と中込君が梃子入れの聲をかけた。いつも朝晩の食事のときは、卓袱台の上を歩き廻ってお相伴にあづかってゐるそうだ。 … … … … 『中込君の雀』
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この文は丸谷才一著『文章読本』で見つけたワンセンテンスだが、中込君が飼っている雀の仔の一情景を描いたものだ。
「前のめりになりかけたが辛くも踏みとどまった」という表現が、仔すずめのかわいい動作をひとことで言いつくしていて素晴らしい…。
わたしも物書きのはしくれとして、何とか簡潔で達意の文章を書きたいと思っているが、この随筆の先達には遠く及ばないと天をあおぐ…。
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ところで今日は「雀のアドレナリン」について書いてみようと思う。
御用とオヒマのあるかたは…
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時間ができると近くの公園へ猫を連れて散歩に出る。
といっても猫は何かの拍子にいったんパニくると意想外の行動に出るので、猫ケージに入れたままベンチに腰掛けてスズメやハトにパン屑をやるのを見学させる…という散歩とはいえない猫散歩である。
マンション猫は終日 "はこ" の中に居るのでストレスが溜まるか、と勝手に思っての連れ出しというわけだ。
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食パン一枚と決めて、指でつまめるほどの小片を空中に投げる。
するとたちまちハトとスズメが20羽づつくらい集まってくる。ご常連というわけだ。
ハトはあつかましく手の届く目の前まで寄ってくるが、スズメは用心深く鳩のむこうに控えて、じっとこちらの手の動きを注視している。
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この項つづく
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